大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成5年(ワ)372号 判決

原告

村田耀子

被告

岩上尚己

主文

一  被告は、原告村田耀子に対し、金二四二万八五一八円及びこれに対する平成三年一月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告ヨシト有限会社に対し、金一四三万一二五五円びこれに対する平成三年一月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告らの、その余を被告の各負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告は、原告村田耀子(以下「原告村田」という)に対し、金六一〇万四三四五円及びこれに対する平成三年一月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告ヨシト有限会社(以下「原告会社」という)に対し、金三六一万四八〇六円及びこれに対する右同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実など

1(本件事故の発生)

被告は、平成三年一月二日午後四時一五分頃、普通乗用自動車(以下「被告車」という)を運転し、神戸市北区山田町下谷上字中一里山三番地先西六甲ドライブウエイカーブNo.三八(県道神戸明石宝塚線)を走行中、対向車線を走行してきた訴外片山良仁(以下「良仁」という)の運転する普通乗用自動車(以下「原告車」という)と接触した。

2(原告村田の本件受傷と入通院期間)

原告村田は、本件事故当時、原告車に同乗していたところ、同事故によつて、右前額部打撲症、頸椎捻挫、外傷性右肩関節炎等の傷害を受け(以下「本件受傷」という)、次のとおり村田整形外科麻酔科(以下「村田整形外科」と略称する。なお、原告村田の主治医である訴外村田弘文院長医師(以下「村田医師」という)は同原告の夫である。)において治療を受けた(ただし、右入通院期間は甲三号証、乙一号証の一ないし六、二ないし七号証の各一・二によつてこれを認める。)。

(一)  平成三年一月二日から同月二七日まで 入院(二六日間)

(二)  同月二八日から同年六月三〇日まで 通院(実日数八二日)

3(原告村田と原告会社の関係等)

(一)  原告会社は、医薬品及び衛生材料の販売・管理、医療機械器具の売買・リース、給食や病院経理事務の受託等を業務とする有限会社であり(原告村田の供述)、そして、原告村田は、原告会社の代表取締役である。

(二)  また、原告会社は、原告車を所有している。

4(被告の責任)

被告は、本件事故当時、被告車を保有し、これを自己の運行の用に供していたから、自賠法三条に基づき、また、前方不注視の過失によつて同事故を惹起したから、民法七〇九条に基づき、原告らが同事故によつて被つた各損害を賠償すべき責任がある。

二  争点

1  原告村田の入院治療の必要性と入院期間の相当性

2  村田医師による診療行為の相当性

3  原告らの各損害額の算定

第三当裁判所の判断

一  原告村田の症状及び治療経過について

1  被告は、原告村田の村田整形外科における診療内容について、原告村田と村田医師の夫婦という関係から、不必要ないし濃厚・過剰な治療が行われ、本件事故との間に相当因果関係の認められないような入院と投薬、注射等の治療が行われた旨主張して、原告村田請求にかかる治療費等の損害額を争つている。

2  そこで、まず、原告村田の本件受傷による症状の内容及び治療経過等をみておくに、同原告の本件受傷の内容、入通院期間及び同原告と原告会社の関係等に関する前記判示の事実と証拠(甲三号証、乙一号証の一ないし六、二ないし七号証の各一・二、九号証の一ないし四、一〇号証の一ないし五、一二、一三号証、検甲一号証の一ないし三、二号証、証人村田医師の証言、原告村田の供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(一) 原告村田(昭和一七年四月二七日生)は、本件事故当時(満四八歳)、同原告肩書住所地に所在する村田整形外科の五階部分において、夫村田医師らとともに暮らしていたが、週末等には、明石市東人丸町三〇―二〇所在の自宅に帰るなどしていた。

(二) 原告村田は、本件事故当日(平成三年一月二日午後四時一五分頃)、長男良仁の運転する原告車(ベンツ)の後部右側座席において、村田医師らと一緒に同乗していたところ、同事故の衝撃によつて、助手席の背もたれ部分に右前額部や右眼付近等をぶつけて強打し、頭痛がひどかつたため、同事故現場から直ちにタクシーで前記自宅に帰り、その後に帰宅した村田医師の診察を受けた。

(三) そして、村田医師は、本件事故時における原告村田の受傷経緯を目撃したことや同直後に生じていた右前額部の皮下血腫、皮膚陥没(断裂)や右眼瞼の紫色変化が著明であり、同原告が吐気を訴えていたことから、約二週間の安静加療を要するとして入院の必要があると判断した。

(四) 原告村田は、そのため、右一月二日から同月二七日までの二六間にわたつて村田整形外科に入院(個室)したが、右前額部に五×八センチメートル大の皮下血腫と右眼瞼下垂があり、また、頭痛、後頭部痛や眼底痛が顕著になり、その後さらに右前額部の知覚異常や右肩痛、右上肢の脱力感等の症状を訴え、その間、村田医師から、後記二で順次判示して検討するとおり、創傷処理や血腫穿刺、投薬、注射等の治療を受けた。

(五) もっとも、原告村田は、右入院期間中の一月三日には、一定時間に限つて、前記自宅に帰つて家事を行つたりしたことがあつた。

(六) そして、原告村田は、同月二七日、右症状が改善されたため退院し、翌二八日から通院に切り替えた上、同年六月三〇日までの間、頭痛、後頭部痛や肩凝り等に対して頸椎牽引やレーザー治療等を受けた。

3  ところで、医師が交通事故によつて負傷した被害者に対して施した診療行為は、それが必要かつ相当なものである限り、これに要した費用は同事故と相当因果関係のある損害と認めるべきところ、当該診療行為(投与薬物の選択及び投与期間を含む。)が必要かつ相当なものであつたか否かの判断については、個々の患者の個体差や症状の具体的内容・程度とその変化、診療の緊急性等に応じ、診療に当たつた医師の臨床的な個別判断が必要とされるものであるから、その判断には一定の裁量が認められるべきであつて、当該診療行為が当時の医療水準に照らして合理的でないと認められる場合に限り、同診療行為が必要かつ相当なものではなかつたと評価するのが相当である。

そして、交通事故の加害者と被害者の損害の公平な分担という点から考えてみても、合理的でないと認められる診療行為に要した費用を加害者に負担させることは相当でないというべきである。

4  それゆえ、原告らの損害額算定については、以上の認定説示に基づいて検討することとする。

二  原告村田の損害額の算定

1  入院の必要性の有無と入院期間の相当性

(一) これまでに判示した原告村田の本件受傷の内容及び程度と症状の内容、殊に右前額部付近の受傷内容と当初から頭痛、後頭部痛や吐気等の症状が存在していたことなどを総合して考えると、同原告については本件事故当時において入院による安静加療の必要性が存在したと認めるのが相当である。

したがつて、本件事故当時において入院治療の必要性がなかつたとする被告の主張は採用できない。

(二) しかしながら、以上の事実関係のほか、原告村田が日頃から村田整形外科の五階部分に居住していることや同原告が右入院の翌日の一月三日にはいつたん自宅に帰つて家事を行つたことは前記認定のとおりであるし、また、本件鑑定嘱託の結果が「二六日間の入院治療を要する病態であつたとは考えにくい」としていること、さらに、後記2(二)でみる平成三年一月分の手術や投薬、注射等の診療内容からすると、本件事故と相当因果関係があると認めるべき入院による要治療期間は、同事故当日からせいぜい二週間程度にとどまり、その後は通院治療で足りたと認めるのが相当である。

それゆえ、前記二六日間にわたる入院期間のうち二週間を超える期間は本件受傷の治療のために必要かつ相当であつたとは認められないというべきである。

2  治療費(請求額金二三八万七五二五円) 金一二九万一五八八円

(一) 診療行為の相当性について

原告村田は、村田医師作成にかかる診療報酬明細書記載の点数と単価に基づいて計算された治療費を本件事故による損害として請求しているところ、以下では、被告が必要かつ相当な診療行為とは認められない旨指摘する点について、前記一3で判示したところに基づいて、順次検討することとする(なお、以下においては、特に検討を加えない治療については、該当する関係各証拠によつて、原告村田に対する必要かつ相当な診療行為であつたと認められるものである。)。

(二) 平成三年一月分

(1) 静注・点滴分

ア まず、原告村田は、村田医師が腱反射、髄膜刺激症状や縮瞳等の神経学的症状と全身状態の複合所見に基づき脳浮腫の存在を認めたとして、その治療のためにマンニトールやウロキナーゼを点滴投与したのは相当であつた旨主張するのに対し、被告は脳浮腫は存在しなかつたとして右投与の必要性を争つている。

イ そこで、検討するに、証拠(乙二号証の一・二、八号証の三・七、九号証の一ない四、一五号証の三、証人村田医師の証言)によると、村田医師は、原告村田に対し、前記入院当日以降、マンニトール五〇〇ml(脳圧眼圧降圧剤・利尿剤)及びアドナ(一〇〇)一A(血管強化止血剤)を一五回分(なお、乙二号証の二中の三〇回分との記載は誤つたものである。)、ウロキナーゼ(二四万単位)一A(血栓溶解剤)を一二回分を各投与したことが認められる。

たしかに、本件証拠上、証人村田医師の証言及び甲一八号証には、村田医師が原告村田主張にかかる前記所見に基づいて脳浮腫の存在を診断したとする部分が存在するけれども、一方、乙一号証の一ないし六(診断書)、九号証の一ないし四、一〇号証の一ないし五及び一三号証(カルテ)を仔細に検討してみても、村田医師が本件診療当時において原告村田につき脳浮腫ないしその疑いを傷病名欄等に記載したことはなく、前記所見の基礎となるべき検査結果の具体的記載もない上、本件鑑定嘱託の結果を併せて考えると、村田医師が右診療当時においてその証言のように脳浮腫の確定診断をしていたとまでは認め難いといわざるを得ない。

とはいえ、これまでに判示した原告村田の右前額部の皮下血腫等の存在、頭痛、後頭部痛や眼底痛等の症状の存在・継続と医師に認められるべき前裁量性等を総合して考えると、村田医師が前記診断に基づいて脳浮腫の存在を慮り、応急の措置として、脳圧降下や止血等に適応のあるマンニトール及びアドナの一定量を適宜投与したとしても、それが前記裁量を超えた合理性のない診療行為であつたまでは認め難いというべきである。

それゆえ、村田医師が原告村田に対して行つた前記マンニトール及びアドナの一五回分の投与については、必要かつ相当な診療行為であつたということができる。

ウ もっとも、前記ウロキナーゼの投与については、証拠(乙八号証の三、本件鑑定嘱託の結果)に照らして考えると、同薬は、血栓溶解剤として使用されるのが一般であり、村田医師が前記のとおり原告村田についてその存在を慮つたと考えられるところの脳浮腫についてさえ適応があつたとは考え難く、しかも、同原告について何らかの血栓症の罹患を窺わせるような医学的証拠は全く存在しないのであるから、医師に認められるべき前記裁量性を考慮しても、前記入院当日以降前記マンニトール以外にさらにウロキナーゼの投与を行うことの合理性は認められないというほかない。

エ 以上によると、乙二号証の二記載の「点滴」の項のうち、以下の診療報酬点数合計二万六二四一点は、必要かつ相当な診療行為に基づいたものとはいえないことに帰着する。

・前記マンニトール及びアドナの投与三〇回分中一五回分を超える誤記分 九九×一五=一四八五(点)

・前記ウロキナーゼの投与一二回分 一九五八×一二=二万三四九六(点)

・点滴手技回路加算三〇回分中合計一六回分を超える部分 九〇×一四=一二六〇(点)

(以上合計二万六二四一点)

オ なお、被告は、さらに、ニコリンの静注は、原告村田に意識障害がなかつた以上、同薬の投与は必要かつ相当なものではなかつた旨主張する。

しかしながら、これまでに判示した原告村田の本件受傷の内容及び症状の内容と証拠(乙八号証の五、原告村田の供述)を総合すると、原告村田は、本件事故により右前額部等を打撲し、頭痛、後頭部痛や眼底痛等を訴えていたこと、そして、ニコリンは、たしかに頭部外傷等による意識障害に対して使用されるのが一般であるが、頭痛等の精神神経症状や意識水準の改善にも適応があるとされていることが認められるから、右事実に照らして考えると、村田医師が原告村田に対して行つたニコリンの投与は、医師に認められるべき前記裁量を超えた合理性のない診療行為であつたとまでは認め難いというべきである。

したがつて、被告の前記主張は採用できない。

(2) 手術分

ア まず、前記一2で判示した原告村田の症状の内容、治療経過と証拠(乙二号証の一・二、九号証の一ないし四、証人村田医師の証言、原告村田の供述)を総合すると、村田医師は、原告村田に対し、本件事故当日及び翌一月三日の両日にわたつて、一日当たり約四回くらいの割合で、夜間を含め、右前額部の皮下血腫について、穿刺を行つて出血した血液を抜いたこと、そして、同医師は、右三日には、出血を止めるため、局所麻酔の上、約二センチメートルにわたつて皮膚を切開し、当該動脈を結紮して真皮縫合するなどの創傷処理を行つたこと、同医師は、なおその後もしばらくの間、止血状況に応じて右穿刺を行つたこと、そして、診療報酬点数については、「創傷処理(皮膚切開術)・顔面露出大部(一一〇〇+五五〇)×一・八、血腫関節穿刺(四〇×一二)×一・八」ということで(なお、右一・八は休日加算分。)、合計三八三四点が計上されていることが認められる。

また、証拠(乙一四号証の一ないし三)によると、皮膚・皮下組織に対する創傷処理については、診療報酬の標準点数によると、直径五センチメートル未満に対するものは一九〇点とされ、真皮縫合を伴う縫合閉鎖を行つた場合は、顔面又は露出部の創傷に限り所定点数の一〇〇分の五〇に相当する点数を加算するとされており、また、いわゆるデブリードマンは、汚染された挫滅創に対して行われるブラツシング又は汚染組織の切除等であつて、通常麻酔下で行われる程度のものを行つたときで植皮を前提に行う場合にのみ算定するとされており、顔面の大部にわたる範囲のときは一一〇〇点とされていることが認められる。

イ そこで、以上の各事実に基づいて考えると、村田医師の行つた前記血腫穿刺は合計一二回という回数も含めて必要かつ相当な診療行為であり、診療報酬点数も適正な算定に基づいたものと認められるが、前記創傷処理については、一九〇点にその一〇〇分の五〇に相当する点数が加算されるにとどまり、本件証拠上、デブリードマンが行われたとして、それに見合うだけの点数算定をすべきことを窺わせる証拠は見当たらないから、前記一一〇〇点を前提として算定することはできないといわなければならない。

ウ そうすると、乙二号証の二記載の「手術」の項のうち、以下の診療報酬点数二四五七点は、必要かつ相当な診療行為に基づいたものとはいえないことに帰着する。

(一一〇〇+五五〇)×一・八-(一九〇+九五)×一・八=二四五七(点)

(3) 内服分

ア 次に、被告は、村田医師が原告村田に対して行つた内服薬投与の中には、パナルジンのように皮下血腫を助長させるような不適切なものが含まれていたり、また、診療報酬明細書においても投与回数が上乗せされて計算されている旨主張する。

イ そこで、検討するに、証拠(乙二号証の一・二、九号証の一ないし四、一〇号証の一ないし五、一五号証の一ないし七、証人村田医師の証言)によると、村田医師は、原告に対し、前記入院当日から一月一三日までの一二日間にわたつて、内服薬として、シナール三㌘(ビタミンC複合剤)、アドナ(一〇)三錠(血管強化止血剤)、セレキノン六錠(消化管運動調律剤)、パナルジン(一〇〇)三錠(抗血小板剤)及びバナン三錠(抗生物質製剤)を投与し、また、その後同月一四日から同月二八日までの一五日間にわたつて(なお、乙二号証の二中の三〇回分との記載は誤つたものである。)、セレキノン、ニフラン(七五)(解熱鎮痛消炎剤)及びパナルジン(一〇〇)各三錠を投与したこと、そして、診療報酬点数においては、右一二日間分として一七三×一二及び三〇日間分として五八×三〇の合計三八一六点が計上されていることが認められる。

ところで、右内服薬のうち、パナルジンについては、前記(2)の皮下血腫に対する治療経過と証拠(本件鑑定嘱託の結果)に照らして考えると、前記一二日間にわたる当初の投与については、血液の抗凝結作用のため、前記皮下血腫を助長するおそれがあつたといわなければならないから、医師に認められるべき前記裁量性を考慮しても、右時点における投与には、その適応があつたとは考え難く、合理性が認められないといわざるを得ない。

しかしながら、その後、右皮下血腫に対する治療が終了した後の一五日間にわたる同薬の投与については、血液循環改善による頭痛等の緩和の適応が生じていたと考えられるから、合理性がなかつたとすることはできない。

ウ 以上の認定説示と証拠(乙一五号証の一ないし七)に基づき、薬価基準によつて診療報酬点数の算定をすると、適正点数は以下のとおりとなる。

・(前記一二日分) 九九(パナルジン投与にかかる点数を控除したもの)×一二=一一八八(点)

・(前記一五日分) 五八×一五=八七〇(点)

エ そうすると、診療報酬点数として計上された前記三八一六点中、右合計二〇五八点を超える一七五八点は、必要かつ相当な診療行為に基づいたものとはいえないことに帰着する。

(4) 入院料その他の費用

ア 被告は、原告村田には入院治療の必要性がなかつたとして、入院に伴う費用及び入院手術に関する諸雑費等は本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない旨主張する。

しかしながら、原告村田について前記入院当日から二週間に限つて入院による安静加療の必要が存したと認めるべきことは前記1で判示したとおりであるから、右期間の限度でのみ入院に伴う費用及び諸雑費を本件事故による損害として認めるのが相当である。

イ 以上に基づいて検討するに、まず、室料差額については、証拠(乙二号証の一、原告村田の供述)によると、本件事故当時、村田整形外科では個室しか空室がなかつたため、原告村田は、個室に入室することになり、二六日分の室料差額として合計金一八万二〇〇〇円を要したことが認められるところ、右事実によると、前記二週間分の室料差額については同事故と相当因果関係のある損害ということができる。

また、証拠(乙二号証の一)によると、右入院につき、診療報酬明細書においては、「入院料」及び「その他」に関する診療報酬点数として合計一万四二四七点、「入院手術特別雑費金九〇〇〇円、入院月間雑費金三〇〇〇円、眼帯代金三〇〇円、付添寝具料金四八〇〇円、冬期パネルヒーター金一万八〇〇〇円」の合計金三万五一〇〇円のほか、診断書及び明細書料合計金一万円が各計上されていることが認められる。

そして、これまでに判示した原告村田の症状の内容と証拠(乙一号証の一、原告村田の供述)を総合すると、原告村田は、前記入院当初から頭痛、後頭部痛や右眼底痛及び吐気が続いたこと、村田医師は、原告村田につき、右当日から五日間について付添看護を要する旨診断し、現に、同原告の実母が付き添つたことが認められる。

ウ 以上の各事実に基づいて考えると、眼帯代金三〇〇円及び診断書料等金一万円のほか、その余の入院に伴う費用及び諸雑費については、その金額等に照らし、前記二週間分に限つていわゆる入院雑費に相当する損害として本件事故と相当因果関係のある損害として認めるのが相当であるところ、その反面として、原告村田請求にかかる後記入院雑費金二万六〇〇〇円については損害として別途認定することはしないのが相当である。

そこで、以上の認定説示と証拠(乙二号証の一)によると、入院料その他に関する診療報酬点数の適正点数及び前記差額室料・諸雑費や診断書料等の費用の適正額は、次の算式のとおりとなる(ただし、日割計算。一点又は一円未満は切捨て)。

・(診療報酬点数)

一万四二四七×一四÷二六=七六七一(点)

そうすると、診療報酬点数して計上された前記一万四二四七点中、右七六七一点を超える六五七六点は、必要かつ相当な診療行為に基づいたものとはいえないことに帰着する。

・(室料差額・諸雑費や診断書料等の費用)

三〇〇+一万+(一八万二〇〇〇+九〇〇〇+三〇〇〇+四八〇〇+一万八〇〇〇)×一四÷二六=一二万七〇三八(円)

(5) そして、証拠(乙二号証の一)によると、平成三年一月分の診療報酬点数は合計六万六五〇〇点とされ、前記差額室料・諸雑費や診断書料等の費用として合計金二二万七一〇〇円が計上されていることが認められるところ、前記(1)ないし(4)の認定説示に従うと、同点数中合計三万七〇三二点が必要かつ相当な診療行為に基づいた点数とは認められないことになるから、これを控除すると、右適正点数は二万九四六八点となり、また、右差額室料・諸雑費や診断書料等の費用の適正額は前記のとおり金一二万七〇三八円となる。

(三) 平成三年二月分ないし同年六月分

(1) 静注・点滴分

ア 被告は、村田医師が平成三年二月以降原告村田に対して行つたヴエノピリンの静注は長期にわたりすぎるとして、必要かつ相当な診療行為ではなかつた旨主張する。

たしかに、証拠(乙二及び三号証の各二、九号証の一ないし四、一〇号証の一・二、本件鑑定嘱託の結果)によると、村田医師は前記入院以降平成三年二月末までの間原告村田に対してヴエノピリン一A(消炎鎮痛剤)を静注し、同年二月の投与回数は二三回であつたこと、そして、ヴエノピリンは一般に長期投与をしないとされていることが認められるけれども、一方、これまでに判示した原告村田の症状の内容と証拠(甲一八号証、証人村田医師の証言)によると、原告村田については、本件事故後相当長期間にわたつて頭痛、後頭部痛、眼底痛や右肩痛等が継続していたことが認められるのであつて、右事実と医師に認められるべき前記裁量性を総合して考えると、平成三年二月中はなお右消炎鎮痛のために同薬投与の適応がなかつたとはいえないから、村田医師が平成三年二月以降も原告村田に対してヴエノピリンを投与したことに合理性がなかつたとすることはできない。

したがつて、被告の右主張は採用できない。

イ 次に、被告は、村田医師が平成三年三月以降同年六月末日までの間に原告村田に対して静注したネナラミン・スリービーは、単なるビタミン剤にすぎず、漫然たる長期投与をすべきではなかつたから、右投与は必要かつ相当な診療行為ではなかつた旨主張する。

たしかに、証拠(乙四ないし七号証の各一・二、一〇号証の二ないし五、一一号証、証人村田医師の証言)によると、村田医師は被告主張の期間にわたつて原告村田に対してネナラミン・スリービー(神経・筋機能賦活剤)を静注したこと、そして、同薬は一般に漫然と使用すべきではないとされていることが認められるものの、一方、原告村田が頭痛、後頭部痛、眼底痛や右肩痛、右上肢の脱力感、右前額部の知覚異常等を訴えていたことは前記判示のとおりであり、また、右各証拠によると、同薬は神経痛、筋肉痛及び関節痛等に対する鎮痛効果があるとされていることが認められるのであつて、右事実と医師に認められるべき前記裁量性を総合して考えると、原告村田につき、右期間にわたる同薬投与の適応がなかつたとはいえないから、村田医師が平成三年三月以降同年六月末までの間ネオラミン・スリービーを静注したことに合理性がなかつたとすることはできない。

したがつて、被告の右主張は採用できない。

(2) 内服分

ア 被告は、村田医師が平成三年二月中に行つた前記パナルジンの投与の必要性を争うが、前記皮下血腫に対する治療が終了した後においては、同薬の投与に合理性がなかつたとすることができないことは前記(二)(3)で判示したとおりであるから、被告の右主張は採用しない。

イ もつとも、証拠(乙三号証の一・二)によると、平成三年二月分の診療報酬点数については、前記セレキノン、ニフラン及びパナルジン各三錠の合計二〇回分の投与に関し、一回分の点数が六八点として計算されていることが認められるが、前記判示のとおり、右適正点数は五八点であるから、右差額一〇点分は誤つたものというほかなく、したがつて、同二〇日分合計二〇〇点は必要かつ相当な診療行為に基づいたものとは認められない。

(3) そして、証拠(乙三ないし七号証の各一)によると、平成三年二月分ないし同年六月分までの間の診療報酬点数は合計一万五三一四点とされていることが認められるところ、以上の認定説示に従うと、同年二月分中必要かつ相当な診療行為に基づいたものとは認められない前記二〇〇点を控除すると、右期間中の適正点数は、結局、合計一万五一一四点ということになる。

また、右各証拠によると、右期間中の診断書料等は、合計金五万円となることが認められる。

(四) 点数単価について

(1) 被告は、本件診療報酬単価につき、自由診療といえども、一点当たり二〇円が限度である旨主張する。

(2) そこで、検討するに、まず、証拠(乙二ないし七号証の各一)によると、平成三年一月分から同年六月分までの各診療報酬明細書では、一点当たり二五円とする月と三〇円とする月があることが認められるが、本件証拠を仔細に検討してみても、右のように月毎に区々の取扱いをしなければならないだけの合理的理由は見当たらないから、本件の治療費算定においては、より低額の方である一点当たり一一五円を上回る単価で算定することは相当でないといわざるを得ない。

そして、交通事故による被害者に対して行われ治療が自由診療による場合については、健康保険による治療の場合が一点当たり一〇円として算定されるのと比較して、一般に高額の単価とされ、一点当たり二〇円ないし三〇円として算定されていることは当裁判所に顕著な事実であるところ、本件では、右事実と関西地区における右単価の均衡等を併せて考えると、一点当たり二五円として算定することはなおやむを得ないと考えられるところであり、やや高額の嫌いはあつてもこれを直ちに不相当とすることはできないというべきである(大阪高裁昭和六〇年一〇月二九日判決・交民集一八巻五号一一八一頁参照)。

そこで、前記(二)(5)及び(三)(3)で認定した適正な診療報酬点数は合計四万四五八二点となるところ、右単価を乗じて計算すると、次の算式のとおり、金一一一万四五五〇円となり、また、前記入院に伴う室料差額・諸雑費や診断書料等の費用を合計すると、金一七万七〇三八円となるから、これらを合計すると、本件事故と相当因果関係があると認めるべき治療費は、合計金一二九万一五八八円となる。

(二万九四六八+一万五一一四)×二五=一一一万四五五〇(円)一二万七〇三八+五万=一七万七〇三八(円)

それゆえ、原告村田請求にかかる治療費は右の限度で理由がある。

3  入院雑費(請求額金二万六〇〇〇円)

本件において、右入院雑費は既に前記治療費の中に含めて算定したことは前記2(二)(4)で判示したとおりであるから、ここでは損害として改めて認定することはしない。

4  通院交通費(争いがない) 金六九三〇円

5  後遺障害による逸失利益(請求額金一二二万八九五〇円)

(一) 原告村田は、平成三年六月三〇日、村田整形外科において、頭重感、頭痛、右前額部の知覚異常、右上肢の脱力感、頸椎の運動制限等の症状を残して症状固定と診断されたが、右後遺障害は一四級一〇号に該当し、そのため、三年間にわたつて五パーセントの労働能力を喪失した旨主張する。

(二) そこで、検討するに、たしかに、証拠(甲三号証、原告村田の供述)によると、村田医師が原告村田主張のとおり症状固定の診断をしたことが認められるけれども、一方、同原告主張にかかる後遺障害の内容自体、そもそも、労働能力にさしたる支障を及ぼし得るものとは考え難い上、証拠(原告村田の供述)及び弁論の全趣旨によると、原告村田は、平成五年一一月の尋問期日の時点で、既に、天気によつて気分の悪い日があるという程度にまで症状が改善されるに至つていること、そして、自賠責保険における事前認定では、非該当との判断がされたことが認められ、右事実に照らして考えると、原告村田の前記症状が後遺障害等級一四級一〇号に該当するとまでは未だ認め難いといわざるを得ず、他に右事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

よつて、原告村田の前記主張は採用できない。

6  慰謝料(請求額金合計一九〇万円) 金九〇万円

これまでに判示した原告村田の本件受傷の内容及び程度、症状の内容、入通院期間と治療経過、さらに一四級に相当するとまでは認め得ないものの、前記症状が残存することなど諸般の事情を総合して考えると、同原告の傷害による入通院慰謝料は、金九〇万円が相当である。

7  原告村田の損害額の小計 金二一九万八五一八円

三  原告会社の損害額の算定

1  原告村田の休業損害の立替分(請求額金一四三万〇一三六円) 金三四万五二〇五円

(一) 原告会社は、原告村田が本件受傷のため平成三年一月二日から同年二月六日までの間にわたつて休業を余儀なくされたが、被告のために、同原告に対してその間に生じた休業損害の立替払いをしたところ、同原告が原告会社から支給を受けていた給与(役員報酬)年額金一八〇〇万円のうちの五割相当分は労働の対価としての性質を有するから、これに基づいて日割計算をした休業損害額金一四三万〇一三六円は、被告が原告会社に対して賠償すべきである旨主張する(なお、原告会社の右休業日数の主張には明白な違算がある。)。

(二) そこで、検討するに、まず、原告村田が原告会社から平成二年において年額金一八〇〇万円の給与の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

また、原告村田の症状の内容、同原告と原告会社の関係等に関する前記判示の事実と証拠(甲四号証、六ないし八号証、一〇号証の一・二、証人村田医師の証言、原告村田の供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告会社は、村田整形外科の税金対策のために設立された会社であつて、医薬品の卸売・一般販売のために店舗を保有しているが、同外科に対する医薬品等の納入や給食、掃除、診療報酬請求等の経理事務が主たる業務であること、そして、原告会社は、原告村田のいわゆる個人会社であつて、薬剤師資格を有する同原告がその経営及び業務全般を取りしきつていること、原告村田は、本件受傷による入院等によつて、右仕事を十分に行うことができなくなり、右日常業務についての従業員数名に対する指揮監督や原告会社に対する医薬品等の納入に支障を来し、とりあえず在庫品でまかなつたりしたこと、そして、原告村田は、右休業状態にもかかわらず、原告会社から平成三年においても従来どおり年額金一八〇〇万円の給与(役員報酬)の支払を受けたことが認められる。

以上の事実関係のほか、原告村田の入院先が原告会社の取引先である村田整形外科であることなどこれまでに判示した原告村田、原告会社及び村田整形外科の密接な関係、原告村田の本件受傷の内容及び程度、症状の内容、そして、本件事故と相当因果関係があると認めるべき入院期間が二週間とするのが相当であること等を総合して考えると、原告村田が本件受傷によつて休業を余儀なくされたと認めるべき期間というのは、原告会社主張のように長期間に及ぶものとはにわかに認め難く、原告村田が現実に入院した期間のうちの二〇日間程度にとどまるというべきであり、しかも、その間に生じたと認めるべき業務遂行上の支障の程度というのは、右事実関係のもとでは、七割であつたと認めるのが相当である。

そして、原告村田の前記給与額中労働の対価としての性質を有する部分は、右認定にかかる同原告の原告会社に占める位置や役割に基づくと、原告会社主張のとおりこれを五割と認めるのが相当である。

(三) そこで、以上の認定説示に基づき、原告会社が被告のために立替払をしたことに基づいて賠償を求めることができると認めるべき休業損害額は、次の算式のとおり、金三四万五二〇五円となる。

一八〇〇万×〇・五×二〇÷三六五×〇・七=三四万五二〇五(円)

2  レツカー代(争いがない) 金三万六〇五〇円

3  代車使用料(請求額金一八二万円) 金九一万円

(一) 原告会社は、本件事故のために原告車を修理に出した結果、九一日間にわたつて一日当たり金二万円の割合による代車使用料金合計金一八二万円の損害を被つた旨主張する。

(二) そこで、検討するに、原告会社が原告車を所有していることは前記のとおり争いがなく、また、右事実と証拠(甲五、九号証、検甲二号証、証人村田医師の証言、原告村田の供述)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告車(ベンツ)は、本件事故によつて右前角部等が相当損傷し、その修理に約三か月を要したこと、原告会社は、右修理期間中、被告側保険会社の意向もあつて、自ら代車の手配を行うこととし、村田医師から、その所有にかかるベンツ一台を使用料を定めずに適宜借り受けて使用したこと、もつとも、原告会社における従来の原告車の利用というのは、前記店舗から村田整形外科に対して医薬品等を運搬、納入する程度にすぎず、村田医師から代車として前記ベンツを借り受けた後も、右と同程度の利用にとどまり、その間にも、同医師や同外科の事務長(村田医師の兄)が引き続き同車を利用することもあつたことが認められる。

以上の事実関係に基づいて考えると、本件事故と相当因果関係があると認めるべき代車使用料は、車両利用の内容及び程度等に照らし、ベンツに見合う高額な代車価格によつて算定することは相当でなく、国産一般車の代車料の限度をもつて算定すべきであるから、前記九一日間にわたつて一日当たり金一万円の割合によつてこれを認めるのが相当であり、以上を合計すると、金九一万円となる。

4  原告会社の損害額の小計 金一二九万一二五五円

四  弁護士費用

本件事案の内容、訴訟の審理経過及び認容すべき原告らの各損害額等によると、本件事故と相当因果関係があると認めるべき弁護士費用の額は、原告村田につき金二三万円、原告会社につき金一四万円が相当である。

五  以上によると、原告らの被告に対する本訴各請求は、原告村田につき、金二四二万八五一八円及びこれに対する平成三年一月三日(本件事故日の翌日。ただし、同原告の主張に従う。)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、また、原告会社につき、金一四三万一二五五円及びこれに対する右同日から右同様の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由がある。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 安浪亮介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例